2013年6月4日火曜日

年金小説 『お誕生日まで待って』    (六)


(六)
それから、和郎さんが年をとったときの年金受給についても年金事務所で相談してきました。
それによると、老齢年金は六十三歳まで国民年金保険料を納付したら二十五年間保険料納付したことになり受給資格ができるとの回答です。

ぜひとも六十三歳まで付加保険料つきで保険料をかけて六十五歳から老齢年金を受け取るようしてください。

それから、私が亡くなったとき和郎さんに遺族厚生年金が六十歳から受け取りができます。年金事務所に出向いて遺族厚生年金の受給について相談しました。

最初、受給は難しいと言われ絶望的になりました。 相談員が私達夫婦の生年月日や年収等を質問し、コンピューターから引き出した年金加入納付記録を見ながら、「残念ながら、遺族厚生年金の受給は難しいです。何故ならご主人が受給するためには貴女が死亡したときご主人の年齢が五十五歳以上になっていなければならないからです。現在五十四歳ですから今すぐに亡くなると遺族厚生年金はもらえません」との回答でした。

夫が死亡したときは妻の年齢にかかわらず死亡時点より妻に遺族厚生年金が受給できるというのに、妻が死亡し夫が受給するときには夫の年齢が五十五歳以上という年齢制限が設けられていることには納得できるものでありません。男女同権と言われている世の中で、男女に格差があるなんて本当に考えられないことでした。
窓口の相談員にその点で食い下がっても、「法律で定められたことですのでどうしょうもありません」と言われてしまい取り付くしまもない状態でした。

そこで、私は決断しました。和郎さんが五十五歳を迎えるまでは絶対に死んではならないと。余命六ヶ月程度と宣言されてしまいましたが、六ヶ月で死んでしまうと遺族厚生年金はもらえません。
なんとか、和郎さんの五十五歳の誕生日である四月四日までは絶対に生き抜くぞと決心したのです。

主治医にも懇願しました。来年の四月四日まではどうしても死ねないのです。どんなにつらくて、どんなに痛くても辛抱しますので命を縮めるような処置は絶対にしないでください。
脳死宣告も拒否します。出来るだけ永く延命が延びる処置をお願いしました。 看護士のみなさまや家族の皆さんに色々と無理もいいました。

「そこまで苦しい思いをしてまで生きなくてもよいのに」と思ったことと思います。
生きることに執念を燃やしてがんこまでに突き進む私を見てひょっとしたら哀れんだかも知りません。

それでも、私はやりぬいたのです。全身のだるさがとれず息苦しく、痛みも続いていたけれどなんとか克服できました。

遺族年金額を試算してもらったところ十一万円もらえるとのことです。
しかし、ここでも男女に格差があることが判り誠に残念で仕方がありません。妻が受けとるときは、寡婦加算といって月五万円程度余分に年金が加算されるのですが、夫が受給するときはその加算がないのです。それに共済組合の場合、夫に年齢制限もなく受給資格が出来るのです。また夫が障害者のときは厚生年金のように六十歳まで待たなくても私が死亡したときから遺族年金が受給できることになっているということを友人から聞いたときは唖然としました。このような不公平な制度が世の中にまかり通っていることに義憤を感じました。

私は命を懸けて受給資格を得ようとがんばっているのに共済組合の加入者には年齢制限がなく夫に受給資格ができるなんて本当に矛盾しています。

いずれにしても、遺族厚生年金が六十歳から一生受給できることになって嬉しいです。
六十五歳になると老齢基礎年金が加算されるとのことです。なんとか和郎さんの老後の生活費が捻出できてほっとしています。障害年金が受給できなかったことへの償いになったとは思いませんが、今、このお手紙をしたためることができて 本当に良かったです。本当に嬉しいです、精神的も興奮しており今夜は眠れそうにありません。

年金の手続方法や添付する書類のことは同封の「年金事務所の書類一式」に詳しく説明されていますので年金事務所に出向いて申請してください。また、勤務していた生保の所長さんにもお礼を言ってくださいね。

最後まで、会社に席を残してくれたおかげで治療費も思ったほど掛からず、給与ももらえて感謝しています。後は家族に見守られながら残された命を全うするだけです。
もう思い残すことはありません。

和郎さん、由紀ちゃん、美紀ちゃん、正郎ちゃん、それから孫の節夫君、ありがとう。皆さんのこれからの幸せを祈っています。 貴方や子供達とめぐり合って本当のよかったです。
死んでからもあなたのおそばでずっと見守っていたいと思います。

ありがとう。ありがとう。あなたと結婚ができて本当によかったです。今、あなたの最後となる誕生パーティをすることができたことに安堵してしたためています。さようなら。いつまでもお元気でね。 みんなの節子より』 





(続く)

0 件のコメント:

コメントを投稿